令和8年熊本地震から1か月|介護BCPは「72時間」を超えて何が必要になったのか?
――実災害から、本当に必要な介護BCPの研修と訓練を考える
2026年7月28日。
令和8年熊本地震が発生しました。
私は発災直後から、この地震について記録を続けてきました。
発災24時間。
48時間。
避難所不足。
断水。
そして、事業継続力強化計画が企業の初動にどこまで機能したのか。
これまでの記事では、災害発生直後に何が起きたのかを中心に追ってきました。
令和8年熊本地震 発災24時間の初動記録
https://kagawabousaiminoru.com/entry/R8kumamotojisin
令和8年熊本地震 発災48時間と災害関連死
https://kagawabousaiminoru.com/entry/R8kumamotojisin2
熊本地震 宇城市の避難所不足と介護施設断水
https://kagawabousaiminoru.com/entry/R8kumamotojisin3
熊本地震で事業継続力強化計画は機能したか
https://kagawabousaiminoru.com/entry/BCRP-R8
しかし、発災から約1か月が経過した今。
改めて一連の災害対応を見直していると、一つ大きな疑問が浮かんできます。
介護BCPは、本当に「発災直後の数日間」を乗り切る計画だけでいいのだろうか。
今回から、この問いを本格的に検証していきます。
発災直後には見えなかったものが、1か月たって見えてきた
発災直後には、どうしても被害の大きさへ目が向きます。
建物は大丈夫なのか。
停電していないか。
断水していないか。
利用者は無事なのか。
職員は集まれるのか。
避難は必要なのか。
これは当然です。
実際、7月31日の厚生労働大臣会見では、高齢者施設・障害者施設を合わせて857施設で被害が確認され、高齢者施設ではサービス提供に支障があり避難が必要となった施設も確認されていました。厚生労働省は、この段階ですでに「電気と水の確保が極めて重要」としています。
しかし、BCPの本当の難しさは、
発災した瞬間だけではありません。
時間が経過すると、問題そのものが変わっていきます。
72時間を超えると「次の問題」が始まる
災害対策では「72時間」という言葉がよく使われます。
発災直後の救命活動。
水や食料。
停電。
安否確認。
避難。
確かに最初の72時間は極めて重要です。
しかし介護施設では、
72時間を超えた瞬間にBCPが終了するわけではありません。
むしろ、そこから別の問題が始まります。
例えば断水。
以前、このブログでも熊本地震における介護施設の水の問題を取り上げました。
水は、
飲料だけではありません。
食事。
服薬。
口腔ケア。
清拭。
排泄。
洗濯。
感染対策。
そして介護そのもの。
施設運営のほぼ全体に関係します。
ところが災害が長期化すると、
「何リットル備蓄しているか」だけでは対応できなくなります。
備蓄を使い切った後、
誰が給水を受けに行くのか。
どう運ぶのか。
どの業務から水を削減するのか。
紙皿やラップなどへ切り替えるのか。
給水支援へどう接続するのか。
ここまで考えなければなりません。
つまり、
備蓄とはBCPの入口であって、BCPそのものではない。
という問題が見えてきます。
「職員を確保する」という問題も長期化した
今回、さらに注目したいのが人員です。
熊本県は8月6日、被災した社会福祉施設等に対する他都道府県からの介護職員等の派遣希望を募集しました。
設定された派遣期間は、
8月12日から9月末まで。
です。
これは非常に重要な事実だと思います。
発災から2週間。
3週間。
1か月。
それでもなお、
外部から介護職員を応援派遣する仕組みが必要になる。
つまり、
「職員の安否確認をする」
「参集可能な職員を確認する」
という初動だけでは足りません。
その先には、
勤務を何週間継続できるのか。
という問題があります。
職員自身も被災者です。
自宅が被災しているかもしれない。
家族が避難しているかもしれない。
通勤ルートが使えないかもしれない。
睡眠不足も蓄積します。
通常業務に加えて災害対応も続きます。
その状態で、
「BCPに担当者が書いてあるから」
だけで事業を継続できるでしょうか。
ここは、今後この研究で詳しく見ていきたいところです。
施設のBCPだけでは完結しなかった
令和8年熊本地震では、介護施設だけで災害対応を完結させているわけではありません。
国や自治体だけでなく、
DMAT、
DPAT、
DWAT、
災害支援ナース、
他地域の介護職員、
社会福祉協議会、
業界団体、
さまざまな支援主体が動いています。
厚生労働省も7月31日の段階でDWAT派遣、福祉関係職員の応援確保などに関する通知を発出しています。
そして熊本県では、その後も介護職員等の派遣調整が続きました。
ここから見えてくるのは、
介護BCPとは「施設だけで頑張る計画」ではない。
ということです。
自施設で耐える時間。
外部へ支援を求めるタイミング。
何を要請するのか。
誰へ要請するのか。
応援職員をどう受け入れるのか。
届いた物資をどう管理するのか。
つまり、
受援まで含めてBCPを設計する必要があります。
「地震BCP」と「感染症BCP」は本当に別物なのか
さらに災害が長期化すると、別の問題も出てきます。
避難生活。
断水。
衛生環境の悪化。
多数の人が同じ空間で生活する。
そこから、
感染症。
食中毒。
体調悪化。
持病の悪化。
災害関連死。
といった二次的なリスクにつながります。
厚生労働省も今回の熊本地震について、避難生活における感染症対策や食中毒予防を継続して案内しています。特にライフラインが寸断されると食品の低温保管などが難しくなり、高齢者などでは重症化にも注意が必要としています。
ここでも疑問が生まれます。
介護施設では、
自然災害BCP
と
感染症BCP
を別々に作成していることが多い。
しかし実災害では、
地震
↓
断水・停電
↓
避難・集団生活
↓
衛生環境悪化
↓
感染症リスク上昇
と連続しています。
災害は、BCPファイルの章立てどおりには進みません。
ここも今回の研究で検証します。
1か月後には「復旧」と「経営」の問題へ変わる
時間軸をさらに伸ばすと、
今度は、
施設修繕。
設備復旧。
事業再開。
利用者の戻り。
職員配置。
介護報酬。
資金。
といった問題へ移っていきます。
実際、政府は8月27日に令和8年熊本地震について「被災者の生活となりわい支援のためのパッケージ」を決定しており、災害対応はすでに緊急対応だけではなく、生活・事業の再建という段階へ移り始めています。
一方で、8月31日時点でも政府の被害状況資料は更新され続けています。
つまり、
復旧が始まった=災害対応が終わった
ではありません。
緊急対応と復旧対応が重なっている期間が存在します。
介護BCPにも、
この時間軸が必要なのではないでしょうか。
そこで、この地震を「時間軸」で再研究する
今回のシリーズでは、
令和8年熊本地震を、
発災直後の被害記録
として見るだけではありません。
時間とともに、
介護施設の課題がどう変化したのか
を追います。
イメージはこうです。
0時間
→ 命を守る・初動判断
24時間
→ 安否確認・避難・電気・水
72時間
→ 食事・排泄・服薬・衛生・職員体制
1週間
→ 備蓄枯渇・疲労・外部調達・受援
2週間
→ 職員不足・感染症・避難長期化
1か月
→ 復旧・応援体制・サービス継続
その先
→ 経営・修繕・BCPの再設計
もちろん、すべての施設がこの順番で問題に直面したわけではありません。
今回の研究では、個別施設の状況と公表資料を確認しながら、
どの時点で、何が課題になったのか
を一つずつ整理していきます。
この研究で調べたいこと
最終的に知りたいのは、
「令和8年熊本地震では何が大変だったのか」
だけではありません。
もっと実務的な問いです。
この災害を経験する前に、介護施設で何を訓練していれば対応しやすかったのか。
です。
例えば、
「断水を想定した訓練をしました」
だけでは足りないかもしれません。
本当に必要なのは、
水がなくなった状態で、実際に一食を提供してみる訓練
かもしれない。
「職員参集訓練」
だけではなく、
職員が半数しか来られない状態で夜勤をどう回すか
を考える訓練かもしれない。
「避難訓練」
だけではなく、
利用者を移した先で24時間介護を続ける訓練
が必要かもしれない。
あるいは、
支援物資が届いた。
応援職員が来た。
そのとき、
誰が受け入れて、誰が指示を出すのか
という受援訓練かもしれません。
「研修」と「訓練」を分けて考える
ここも、この研究で大切にしたいところです。
介護BCPでは、研修と訓練の実施が求められています。
基準上も、BCPの具体的内容を職員間で共有する「研修」と、災害発生時に迅速に行動できるよう役割分担や実践するケアを確認する「訓練(シミュレーション)」は、それぞれ目的が整理されています。
しかし、
BCPを読み合わせること
と、
災害時に動けること
は同じではありません。
だから、このシリーズでは、
研修
何を知っておかなければならないのか
と、
訓練
何ができなければならないのか
を分けて考えます。
そして実災害から逆算して、
本当に必要な介護BCP研修・訓練とは何か
を考察していきます。
このシリーズで研究するテーマ
現時点では、大きく次のテーマを追う予定です。
水・断水
→ 備蓄だけで本当に対応できたのか。
食事
→ 調理・食器・嚥下食・洗浄・熱源まで含めて一食を成立させられるか。
排泄
→ 断水時に利用者の排泄ケアをどう継続するか。
電源・空調
→ 電気が止まったとき、優先すべき機器は何か。
職員
→ 職員が来られない、疲弊する状況でどう勤務を継続するか。
通信・安否確認
→ 通信障害時に誰と、どう連絡するのか。
感染症・衛生
→ 自然災害BCPから感染症対応へどう切り替えるか。
受援
→ 人・物資・専門職をどう受け入れるか。
長期避難・事業復旧
→ 72時間を超えて、介護サービスをどう残すか。
そして最後に、
「令和8年熊本地震から考える、本当に必要な介護BCP研修と訓練」
へつなげます。
介護BCPを「作った書類」から「動ける仕組み」へ
このブログではこれまで、介護BCPについてさまざまな記事を書いてきました。
介護BCP関連記事まとめ
https://kagawabousaiminoru.com/entry/kaigo-bcp-matome
介護BCP研修では何を学ぶべきか?
https://kagawabousaiminoru.com/entry/kaigobcp-00
介護BCP研修の内容・目的・現場で使うポイント
https://kagawabousaiminoru.com/entry/kaigobcp-01
介護BCP研修の自然災害編
https://kagawabousaiminoru.com/entry/kaigobcp-15
介護BCP研修のクロスロード型シナリオ
https://kagawabousaiminoru.com/entry/kaigobcp-19
介護施設の夜勤帯地震初動カード作成キット
https://kagawabousaiminoru.com/entry/kaigoBCP1
しかし今回のシリーズでは、
既存の介護BCPに実災害を当てはめます。
BCPに書かれていたことは、本当に必要だったのか。
書かれていなかったものは何だったのか。
研修で教えていたことは、現場で使えたのか。
訓練しておくべきだった行動は何だったのか。
そして、
「令和8年熊本地震が起きる前に戻れるとしたら、介護施設の職員に何を研修し、何を訓練してもらうか。」
この問いに答えてみたいと思います。
令和8年熊本地震は、介護BCPを検証する実災害になった
介護BCPは義務化されました。
だから、
BCPを作る。
研修をする。
訓練をする。
それ自体は必要です。
しかし、本当の目的は、
義務を満たすことではありません。
利用者の命を守る。
職員を守る。
介護を止めない。
止まったとしても、重要な機能から立ち上げる。
そして外部からの支援につなぐ。
そのためにBCPがあります。
令和8年熊本地震から約1か月。
初動時には分からなかった事実が、少しずつ見えるようになってきました。
だからここで一度、
時間を巻き戻して検証してみます。
発災0時間。
24時間。
72時間。
1週間。
2週間。
1か月。
その時々で、
介護施設は何に困ったのか。
何が必要になったのか。
何を事前に決めておけばよかったのか。
そして、
どんな研修と訓練をしておけば、その場で動けたのか。
これから、この問いを一つずつ追っていきます。
「令和8年熊本地震×介護BCP|実災害から研修・訓練を再設計するシリーズ」のスタートです。
令和8年熊本地震×介護BCP|実災害から研修・訓練を再設計するシリーズ
- 令和8年熊本地震から1か月|介護BCPは「72時間」を超えて何が必要になったのか?
――実災害から、本当に必要な介護BCPの研修と訓練を考える
※今回の総論・シリーズ入口
- 介護BCPの断水対策は「水を備蓄する」だけで足りるのか?
――令和8年熊本地震から考える、72時間後の給水・節水・介護継続訓練
- 介護BCPの食事対策|災害時に「一食を成立させる」ことはできるのか?
――調理・嚥下食・食器・洗浄・熱源まで実災害から考える
- 介護BCPの排泄対策|断水してもトイレと排泄ケアを続けられるか?
――高齢者施設で本当に必要な排泄訓練を熊本地震から考える
- 介護BCPの停電対策|非常用電源があれば介護は継続できるのか?
――医療機器・空調・照明・充電から考える「電力の優先順位」
- 介護BCPの職員確保|「安否確認と参集」だけでは足りない理由
――令和8年熊本地震から考える、職員半数でも介護を続ける勤務体制
- 介護BCPの夜勤対策|地震発生時に少人数の職員だけで何ができるのか?
――夜勤帯の初動から24時間後までをシミュレーションする
- 介護BCPの通信対策|電話もインターネットも使えないとき誰とどう連絡するか?
――安否確認・行政・家族・応援要請まで通信断を想定する
- 介護BCPの感染症対策|自然災害BCPと感染症BCPは本当に別々でいいのか?
――断水・避難・衛生悪化から感染症へ連鎖する実災害を考える
- 介護BCPの受援計画|応援職員や支援物資が来れば本当に助かるのか?
――令和8年熊本地震から考える「支援を受ける訓練」
- 介護BCPの避難訓練|利用者を避難させた後、24時間の介護を続けられるか?
――「移動して終わり」にしない福祉避難と介護継続
- 介護BCPは1週間後を想定しているか?
――備蓄枯渇・職員疲労・調達困難から考える長期災害対応
- 介護BCPは2週間後を想定しているか?
――応援職員・感染症・長期避難が始まったとき施設運営をどう変えるか
- 介護BCPは1か月後を想定しているか?
――復旧・職員配置・サービス再開・利用者支援をどう設計するか
- 介護BCPの業務優先順位|災害時に「通常どおりの介護」を続けようとしてはいけない理由
――限られた人・水・電気で何を残し、何を止めるのか
- 介護BCPの研修では何を教えるべきなのか?
――令和8年熊本地震から逆算する「職員が知っておくべきこと」
- 介護BCPの訓練では何をできるようにするべきなのか?
――読み合わせから「行動できるシミュレーション」へ
- 介護BCP訓練は年何回やればいいのか?ではなく「何を試したか」で考える
――実災害から考える訓練記録と継続改善
- 介護BCPは一つの災害だけを想定して本当に機能するのか?
――地震・停電・断水・感染症が連鎖する複合災害への備え
- 令和8年熊本地震から考える、本当に必要な介護BCP研修と訓練
――「BCPを作った施設」から「災害時に動ける施設」へ
※シリーズ最終まとめ