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【令和8年熊本地震・72時間検証】
【令和8年熊本地震】「72時間の壁」との戦いを追う。宇城市では避難所の収容力が追いつかず、介護施設259か所で断水が続いた
令和8年熊本地震では、避難所や介護施設をめぐる多くの情報がSNSに投稿されました。
「避難所に入れない」
「物資がない」
「水が届かない」
「行政は何をしているのか」
一つひとつの投稿は、被災者が実際に経験した重要な情報です。
しかし、その投稿だけを見ると、避難所の開設や物資支援が全く行われていないようにも見えます。
災害時の情報は、一つの投稿だけで判断してはいけません。
どの市町村で起きているのか。
避難所はいくつ開設されていたのか。
施設そのものが使用できる状態だったのか。
何人の被災者に対して、どれだけの受け入れ能力があったのか。
発災から何時間が経過していたのか。
数字、地域、時系列を重ねると、今回起きていた問題が少しずつ見えてきます。
最初に、発災から72時間までを確認する
地震が発生したのは、7月28日16時27分です。
熊本県は同時刻に災害対策本部を設置し、緊急消防援助隊の出動要請が行われました。その後、17時30分に陸上自衛隊、21時に海上自衛隊への災害派遣要請が行われています。
発災当日の県資料には、警察、消防、自衛隊などによる**「72時間以内の人命救助を最優先」**とする活動方針が明記されていました。
一方、厚生労働省の介護BCP資料では、行政支援開始の目安とされる被災後3日目まで、自力で業務を継続できる備蓄を行う考え方が示されています。
つまり、同じ「72時間」でも、二つの意味があります。
- 災害対応機関にとっては、人命救助を最優先する時間
- 介護施設にとっては、自力継続の限界に近づく時間
この二つが同時に進行していました。
発災から72時間までに、数字はどう変わったのか
| 公表時点 |
発災からの経過 |
確認された状況 |
| 7月28日19時30分 |
約3時間 |
高齢者関係施設の被害報告なし |
| 7月28日22時 |
約5時間半 |
466か所の避難所に4,744人が避難 |
| 7月28日24時 |
約7時間半 |
高齢者関係施設13施設で被害、4施設で断水 |
| 7月29日14時 |
約21時間半 |
高齢者関係施設82施設で被害報告 |
| 7月30日14時 |
約45時間半 |
406か所の避難所に9,450人が避難 |
| 7月30日16時30分 |
約48時間 |
高齢者関係施設522施設で被害、167施設で断水 |
| 7月31日14時 |
約69時間半 |
断水約79,100戸。16市町村に給水所を設置 |
| 7月31日16時27分 |
72時間 |
発災から3日が経過 |
| 7月31日17時 |
約72時間半 |
高齢者関係施設734施設で被害、259施設で断水 |
高齢者関係施設について、発災約3時間後には「被害報告なし」でした。しかし、約7時間半後には13施設、翌日には82施設、約48時間後には522施設、約72時間半後には734施設へ増加しています。
これは、発災後に新しい被害が次々と発生したという意味だけではありません。
被害施設への連絡、施設から自治体への報告、自治体から県への集約、県から国への報告に時間がかかり、被害の全体像が段階的に見えるようになったことを含んでいます。
発災直後の「被害報告なし」は、「被害がなかった」という意味ではなかったのです。
最初に見るべきなのは、避難所の数と収容力
今回、特に厳しい状況が数字に表れた地域の一つが宇城市です。
7月30日14時時点では、熊本県全体で406か所の避難所が開設され、9,450人が避難していました。
そのうち宇城市では、7か所の避難所に2,827人が避難していました。
県全体の避難者の約3割が、宇城市に集中していたことになります。単純平均では、1か所当たり約404人です。実際には避難者数が均等に分かれていたわけではないため、特定の施設にはさらに多くの人が集中していた可能性があります。
宇城市の指定避難所一覧を見ると、指定避難所としての収容人数が数十人規模の施設から、数百人規模の施設まで混在しています。
また、宇城市は平時から、
- すべての避難場所が開設されるわけではない
- 地震時には施設点検のため、すぐに入場できない場合がある
と案内しています。
避難所として指定されていても、地震後の安全確認が終わらなければ開設できません。
建物が無事でも、電気、水道、トイレ、冷房、食料、職員の配置が確保できなければ、避難所として十分に機能しません。
避難所は「指定されている数」ではなく、
発災後に実際に使える施設数と、実際に受け入れられる人数
を見なければならないのです。
避難所数が減る一方、避難者は約2倍に増えた
発災当日の7月28日22時には、県内466か所の避難所に4,744人が避難していました。
7月30日14時には、避難所は406か所に減った一方、避難者は9,450人に増えています。
避難所数は60か所減少し、避難者数は4,706人増加しました。
避難所の安全確認や統合、閉鎖が進む一方で、断水、停電、余震への不安などから、新たに避難する人が増えたと考えられます。
この数字から見えるのは、「避難所を開設したか、していないか」という単純な問題ではありません。
限られた避難所へ避難者が集中し、収容力、職員、物資、トイレ、冷房などに大きな負荷がかかっていたということです。
行政が把握できていない避難者もいる
公表された9,450人は、行政が避難所などで確認できた避難者数です。
車中泊をしている人。
断水した自宅で生活を続けている人。
親族や知人宅へ避難した人。
指定されていない集会所や民間施設へ避難した人。
こうした避難者が、すべて数字に含まれているとは限りません。
宇城市では、車中泊の避難場所として豊野防災拠点センターの駐車場も案内されました。また、7月31日には既存施設に加えて、小学校や中学校などが新たな避難所として追加されています。
避難所の開設状況は固定されたものではありません。
被害、避難者数、安全確認、ライフラインの状況に応じて、開設、追加、閉鎖が繰り返されます。
一時点の投稿や避難所一覧だけで、災害対応全体を評価することはできません。
SNSの投稿は間違いではない
ここで誤解してはいけないのは、避難所に入れなかった人の投稿が間違っているわけではないということです。
実際に避難所へ行き、入れなかった。
その時点では水や食料が届いていなかった。
暑さや余震への不安から、車中泊を選ばざるを得なかった。
その体験自体は事実です。
問題は、その投稿だけを見て、地域全体や行政対応全体を判断してしまうことです。
SNSに投稿された個人の体験は、災害状況を示す「分子」です。
一方で、
- 市町村全体の避難者数
- 開設された避難所数
- 施設の収容力
- 断水戸数
- 被災施設数
- 支援部隊や物資の投入状況
といった数字は「分母」です。
分子だけを拡散し、分母を確認しなければ、局地的な問題が熊本県全体の問題として受け取られたり、支援が全く行われていないように見えたりします。
SNSは、現場の異変を発見する重要な情報源です。
しかし、SNSだけでは全体像は見えません。
支援が動いていなかったわけではない
今回、行政や支援機関が何もしていなかったわけではありません。
7月31日14時時点では、断水や濁水、漏水が確認された16市町村すべてに給水所が設置されていました。熊本市、宇土市、宇城市、天草市、上天草市では試験通水も始まっていました。
また、簡易型クーラーや冷風機など計364台が、7月30日までに県内51か所の高齢者施設、病院、避難所などへ輸送されています。
一方で、断水は約79,100戸に及び、医療機関や社会福祉施設からも多数の給水支援要請が寄せられていました。
県は7月30日に国土交通省の協力を得て「給水支援本部」を設置し、7月31日には緊急性の高い施設を抽出して、翌日の給水計画を検討していました。
さらに、保健、医療、福祉の支援をつなぐ第1回「保健・医療・福祉支援連携会議」が開かれたのは、7月31日14時です。
発災から約69時間半が経過し、72時間を迎える直前でした。
支援は動いていました。
しかし、被害の規模が大きく、道路、給水車、人員、給水容器、受け入れ体制には限界があります。
「支援が開始されたこと」と「必要な施設へ支援が届いたこと」は、同じではありません。
そして、72時間後も断水は終わっていなかった
発災から72時間が経過したのは、7月31日16時27分です。
その約30分後に近い7月31日17時時点で、熊本県内の高齢者関係施設では、次の被害が報告されていました。
- 被災施設数:734施設
- 建物被害:604施設
- 停電:53施設
- 断水:259施設
- ガス停止:125施設
八代市では163施設が被災し、116施設で断水が継続していました。
宇城市では60施設が被災し、47施設で断水、12施設で停電、15施設でガス停止が続いていました。
県全体の断水施設数は、最大271施設から259施設へ減っていました。
復旧は始まっていました。
しかし、発災から72時間を経過しても、断水施設の大部分は水を使えない状態だったのです。
被害報告の増加は、初動把握の難しさを示している
高齢者関係施設の被災施設数は、次のように増えました。
| 時点 |
被災施設数 |
断水施設数 |
| 7月28日19時30分 |
報告なし |
報告なし |
| 7月28日24時 |
13施設 |
4施設 |
| 7月29日14時 |
82施設 |
28施設 |
| 7月30日16時30分 |
522施設 |
167施設 |
| 7月31日17時 |
734施設 |
259施設 |
この推移は、介護施設の被害把握が一度にはできなかったことを示しています。
施設職員は、発災直後から利用者の安全確認、応急救護、転倒物の片付け、食事、排泄、服薬、家族への連絡などに追われます。
通信手段が残っていても、施設内の対応を優先すれば、外部への報告は遅れます。
自治体側も、多数の施設へ同時に連絡しなければなりません。
そのため、介護BCPには「被害を報告する」と書くだけでは不十分です。
誰が報告するのか。
どこへ報告するのか。
電話がつながらない場合は何を使うのか。
夜勤職員しかいない場合は、どの時点で報告するのか。
必要な水量、残量、利用者数、職員数を、どの様式で伝えるのか。
ここまで設計しておかなければ、支援要請は機能しません。
「3日分備蓄」の前提が崩れる
厚生労働省の介護BCP資料では、行政支援開始の目安となる被災後3日目まで、自力で業務を継続するための備蓄を行う考え方が示されています。
水は1人1日3リットル、3日で9リットル。
食料は1人1日3食、3日で9食が一つの目安です。
一方で、同じ資料には、東日本大震災後、備蓄の目安を3日分から7日分程度へ増強する動きや、南海トラフ地震の想定地域で2週間分を備蓄する例も記載されています。
そして、1人1日3リットルは主に飲料水の目安です。
介護施設では、飲み水だけでは運営できません。
食事の調理。
服薬。
経管栄養。
口腔ケア。
清拭。
排泄後の処理。
トイレ。
感染対策。
食器や器具の洗浄。
こうした生活用水が必要です。
厚生労働省のBCP資料でも、生活用水の多くがトイレ、食事、入浴に使われること、水を使わない代替手段や、給水車から水を受け取るための容器を準備することが示されています。
72時間は「助けが来る時間」ではなかった
今回の地震から見えたのは、介護BCPにおける72時間の本当の意味です。
72時間とは、支援が確実に施設へ到着する期限ではありません。
施設内の備蓄が尽き始める一方で、行政が被害情報を集約し、緊急性を判断し、給水計画を組み立てている時間です。
つまり、
72時間は支援の到着点ではなく、自力継続と外部支援をつなぐ、最も危険な接続点だった。
介護施設は、72時間後に事業を停止できません。
利用者を一斉に帰宅させることもできません。
職員自身も被災し、道路の寸断や燃料不足によって出勤できない可能性があります。
夜勤職員が交代できず、少人数で施設を維持しなければならないこともあります。
その状態で水の備蓄が尽きれば、施設運営は急速に危機的な状態へ入ります。
必要なのは、72時間の先をつなぐ設計
介護BCPを、
「3日分の水と食料を準備した」
「72時間耐えれば行政が助けてくれる」
という前提だけで設計してはいけません。
少なくとも、次の24時間から48時間をどのようにつなぐのかを考える必要があります。
給水車が来るまで、飲料水と生活用水が何リットル必要なのか。
施設の受水槽や貯水槽を、断水後に安全に利用できるのか。
水を運ぶ容器、台車、ポンプ、人員はあるのか。
断水情報と水の残量を、誰がどこへ報告するのか。
行政からすぐに給水を受けられない場合、協力法人、取引業者、地域事業者などから水を運べるのか。
トイレ、食事、清拭、洗浄について、水を使わない代替手段を準備しているのか。
必要なのは「備蓄品の一覧」ではありません。
水が減り始めてから、外部支援へ接続するまでの具体的な行動計画です。
避難所と介護施設に共通していたこと
今回の避難所と介護施設には、共通する問題がありました。
準備が全くなかったわけではありません。
避難所は指定されていました。
介護施設にもBCPや備蓄がありました。
行政、消防、警察、自衛隊、医療、福祉の支援も動いていました。
しかし、地震によって施設が使えなくなり、想定を超える人が避難し、断水が長期化しました。
計画上の数字と、実際の被害が合わなくなったのです。
さらに、行政が被害の全体像を把握し、支援の優先順位を決めるまでにも時間が必要でした。
避難所では、限られた施設へ多くの人が集中しました。
介護施設では、72時間を超えても259施設で断水が続きました。
この状況を、現場職員の努力不足や行政の怠慢という単純な言葉だけで説明することはできません。
重要なのは、どこで計画と現実がずれたのかを、地域、数字、時系列で確認することです。
正確に分析されていない情報では、判断も非難もしない
災害時のSNSには、現場からの重要な情報が多数投稿されます。
一方で、市町村名や施設名が分からず、被害の一部分だけが拡散されることもあります。
だからこそ、投稿を否定するのではなく、公的資料と重ねて読む必要があります。
避難所が少なかったのか。
避難所が被災して使えなかったのか。
収容人数が不足していたのか。
物資が行政の拠点には届いていたが、各避難所への配送に時間がかかっていたのか。
介護施設の備蓄量が不足していたのか。
それとも、想定していた72時間を超えて断水が続いたのか。
これらを分けて考えなければなりません。
SNSは現場の異変を発見するための情報源です。
行政資料は、被害の全体像と支援の進行を確認するための情報源です。
どちらか一方だけでは、災害の実態を正確に判断できません。
正確に分析されていない情報だけで、判断したり、誰かを非難したりしない。
これは、今回の令和8年熊本地震から、私たちが学ぶべき重要な教訓です。
そして、介護BCPについては、もう一度問い直さなければなりません。

介護BCPの水対策・研修・テンプレ
あなたの施設の水対策は、本当に72時間を超えて機能する設計になっていますか。
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出典・参考資料URL
熊本県
令和8年熊本地震に係る第2回災害対策本部会議資料
https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/315400.pdf
令和8年熊本地震による人的被害等の状況・7月30日14時時点
https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/315621.pdf
令和8年熊本地震に係る第7回災害対策本部会議資料
https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/315685.pdf
第1回政府非常災害現地対策本部会議・第8回熊本県災害対策本部会議資料
https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/315754.pdf
厚生労働省・被害状況
7月28日19時30分現在
https://www.mhlw.go.jp/content/001729633.pdf
7月28日24時現在
https://www.mhlw.go.jp/content/001729640.pdf
7月29日14時現在
https://www.mhlw.go.jp/content/001730228.pdf
7月30日16時30分現在
https://www.mhlw.go.jp/content/001731255.pdf
7月31日17時現在
https://www.mhlw.go.jp/content/001731993.pdf
介護BCP資料
介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000749543.pdf
社会福祉施設等におけるBCP様式および解説集
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000651586.pdf
介護サービス向け自然災害BCPひな形・共通
https://www.mhlw.go.jp/content/001286934.xlsx
宇城市
指定緊急避難所および指定避難所
https://www.city.uki.kumamoto.jp/kurashi/bosaiinfo/2160153
令和8年熊本地震に伴う避難所開設情報
https://www.city.uki.kumamoto.jp/toppage/important/2415505
令和8年熊本地震に関する情報
https://www.city.uki.kumamoto.jp/toppage/kinkyu/2606699