避難行動判定フローは、一つの災害だけを見ていて本当に機能するのか?
千葉豪雨・富山豪雨から考える「避難行動フロー2.0」|状況変化で正解を選び直す避難行動設計
🔵 未来への不安
大雨が降り続いている。
ハザードマップを確認すると、自宅には浸水リスクがある。
家族で決めていた避難所へ向かうことにした。
ここまでは、正しい判断だったかもしれません。
ところが――。
避難を始めてから、予定していた道路が冠水した。
別の道路では土砂崩れが起きた。
停電した。
スマートフォンもつながりにくくなった。
避難所まで行けるのかも分からない。
こんなとき、
最初に決めた避難計画を、そのまま続けるべきなのでしょうか。
2026年の千葉豪雨、富山豪雨などの実災害を追っていく中で、私はこれまで考えてきた避難行動設計に、もう一つ必要なものがあると感じるようになりました。
それが、
「状況が変わったら、正解を選び直す」
という考え方です。
今回のER-DIGでは、これを
「避難行動フロー2.0」
として考えます。
そしてこの記事の最後では、さらにその先に見えてきた、
「0時間の避難行動」
についても考えてみます。
これまで「避難するための仕組み」を作ってきた
このブログでは、避難行動について段階的に考えてきました。
最初に考えたのが、
避難行動判定フロー
です。
自宅に危険があるのか。
避難する必要があるのか。
どこへ避難するのか。
つまり、
Should=「避難するべきか?」
を判断する仕組みです。
👉 避難行動判定フロー
関連記事を見る
しかし、「避難した方がいい」と分かるだけでは、人はなかなか動けません。
そこで次に必要になるのが、
マイ・タイムライン
です。
雨量、河川水位、警報、避難情報などを確認しながら、
When=「いつ動くか?」
を事前に考えます。
さらに私はER-DIGで、
地震。
水害。
火災。
停電。
通信障害。
食料と水。
避難所。
感染症。
カスケード災害。
などを一つずつ検討し、
Can=「その行動は本当に実行できるのか?」
を考えてきました。
👉 ER-DIGアクションマップ
ER-DIG一覧を見る
ここまでを整理すると、
Should 避難するべきか?
↓
When いつ動くか?
↓
Can 本当に動けるか?
となります。
しかし、2026年夏の実災害を追っていて、ここに一つ足りないものがあることに気付きました。
最初の「正解」が途中で使えなくなったら?
災害は、計画通りには進みません。
避難所へ行こうとしたら道路が冠水した。
別ルートでは土砂崩れが起きた。
橋が通れなくなった。
停電した。
通信が使えなくなった。
避難所そのものが利用できなくなった。
つまり、
最初の判断が正しくても、途中で「正解」が変わる。
ことがあります。
ここが、従来の避難行動判定だけでは十分に表現できなかった部分です。
千葉豪雨で見えた「移動しない」という避難
千葉豪雨では、大雨による交通への影響によって、帰宅そのものが困難になる状況が発生しました。
ここで考えたいのは、
「自宅へ帰る」という普段なら当然の行動が、災害時には危険な行動へ変わる可能性がある
ということです。
鉄道が止まる。
道路が冠水する。
夜になる。
それでも、
「家へ帰らなければ」
と移動を続ければ、危険な場所へ自分から入ってしまう可能性があります。
だから、
安全な場所にとどまる。
という判断も必要になります。
避難とは、
必ずしも「移動すること」ではありません。
現在地の方が安全なら、
動かないことも避難行動です。
富山豪雨では「避難の前提」が次々と崩れた
富山豪雨では、さらに複雑な状況が発生しました。
豪雨。
浸水。
土砂災害。
道路寸断。
地域孤立。
停電。
通信困難。
物資輸送への影響。
一つの災害から、別の問題が次々と発生していきます。
これはER-DIGで考えてきた、
カスケード(連鎖災害)
の考え方ともつながります。
👉 ER-DIG【カスケード編】
地震の後に津波、火災が続く複合事態を考える
つまり実災害では、
「水害だから水だけを見る」
では足りません。
必要なのは、
「今、何が起きているか」だけでなく、「何が変わったか」を見続けること。
です。
そこで「避難行動フロー2.0」
この問題から考えたのが、
分岐+再判定型「避難行動フロー2.0」
です。
基本となる判断は6つです。
- 何が起きているのか?
- 今いる場所は安全なのか?
- 移動すること自体が安全なのか?
- 予定していた避難先は使えるのか?
- 別の危険が発生していないか?
- 第一案が使えないなら、次に何をするのか?
しかし、一番重要なのは6番まで進むことではありません。
6番まで行ったら、もう一度1番へ戻る。
ことです。
判断
↓
行動
↓
状況変化
↓
再判定
↓
行動変更
↓
再び状況確認
このループを続けます。
これが、
What next=「状況が変わったら、次にどうする?」
です。
「再判定する条件」を事前に決める
ただし、
「臨機応変に対応してください」
では、災害時にはなかなか動けません。
そこでER-DIGでは、
何が起きたら再判定するのか
まで事前に考えます。
例えば、
- 警戒レベルや避難情報が変化した
- 道路が冠水した
- 河川・土砂災害の危険度が急上昇した
- 停電した
- 通信が使えなくなった
- 避難所が利用できなくなった
- 家族の現在地が変わった
- 車などの移動手段を失った
- 日没・暴風などで移動条件が悪化した
こうした変化があれば、
「一度止まって、再判定する」
と決めておきます。
つまり避難計画は、固定された予定表ではありません。
状況変化によって更新する行動設計
なのです。
ただし「自分勝手に判断を変える」のではない
ここも重要です。
避難行動フロー2.0は、
「自分が大丈夫だと思えば指示を無視していい」
という意味ではありません。
例えば商業施設などで避難指示が出された場合、その判断には自分からは見えない建物全体の危険情報が含まれている可能性があります。
再判定とは、
新しい情報を根拠に、誰の判断に従うべきなのかも含めて行動を更新すること。
です。
「自分は大丈夫だと思う」は、再判定の根拠にはなりません。
ここまで考えて、逆に「発災前」が見えてきた
そして避難行動フロー2.0をここまで考えたところで、私は逆方向に一つの疑問を持ちました。
状況が変わるたびに再判定する。
これは確かに重要です。
しかし――。
そもそも、発災してから考えなければならないことを減らせないだろうか?
という問題です。
ここから、次の避難行動研究が始まります。
「0時間」の災害対応
仮に災害が発生した瞬間を、
T=0
とします。
その瞬間に、
水はあるのか。
靴はあるのか。
ライトはあるのか。
スマートフォンに電力はあるのか。
防災リュックは準備できているのか。
避難先を知っているのか。
家族との連絡方法を決めているのか。
別ルートを知っているのか。
これらを一つずつ考え始めていたら、初動は遅れます。
しかし実際には、そのほとんどを、
T=0より前に決めておくことができます。
そこで、今後の避難行動研究で考えたいのが、
発災した瞬間に、考えなくても最初の行動へ移れる状態をどこまで作れるか。
という問題です。
これを私は、
「0時間の避難行動」
として考えていきたいと思います。
防災モードへ「切り替える」のではなく、最初から生活に入れておく
さらに、もう一段進めて考えてみます。
普段500mlの水を持ち歩く。
モバイルバッテリーを持つ。
車の燃料を一定以下にしない。
水や食料をローリングストックする。
寝室にライトと靴を置く。
避難経路を普段から知っている。
スマートフォンに必要な情報を入れておく。
これらは、毎日、
「防災をしよう!」
と考えて行う必要はありません。
生活習慣にしてしまえばいい。
つまり目指したいのは、
災害が起きても、意識して「防災モード」に切り替えなくても動ける状態を、日常生活の中に組み込んでおくこと。
です。
これは、
非常時のために特別な生活をする
という意味ではありません。
むしろ、
普段の生活そのものを、災害にも耐えられる形にしておく。
という考え方です。
「災害が起きるまでの平時」という考え方を変える
日本で生活していると、
地震。
津波。
台風。
豪雨。
土砂災害。
猛暑。
大雪。
火山。
停電。
通信障害。
物流停止。
さまざまな危険が存在します。
だから、
「今は平時。いつか災害が来る」
と完全に分けて考えるより、
「災害リスクが存在する社会の中で、日常生活を続けている」
と考えた方が、現実に近いのかもしれません。
これは、
「いつも災害を怖がって生活する」
という意味ではありません。
逆です。
水を持つことも普通。
電源を持つことも普通。
食料を循環させることも普通。
避難先を知っていることも普通。
家族で行動を共有していることも普通。
そうしておけば、
平時と災害時の間にある大きな段差を小さくできます。
避難行動研究に「第0段階」を追加する
ここまでの研究を、もう一度整理してみます。
0|Ready
「発災した瞬間、考えなくても最初の行動へ移れるか?」
↓
1|Should
「避難するべきか?」
↓
2|When
「いつ動くか?」
↓
3|Can
「本当にその行動を実行できるか?」
↓
4|What next
「状況が変わったら、次に何をするか?」
そしてWhat nextで状況が変化すれば、
再判定します。
つまり、
Ready → Should → When → Can → What next → 再判定
という循環です。
ここまで来ると、避難行動は単なる、
「逃げ方」
ではありません。
災害前から災害中まで連続する「生活行動設計」
になってきます。
避難行動フロー2.0から、次の研究へ
今回の記事では、
最初の正解に固執しない
ことを考えました。
道路が使えなければ変える。
避難所へ行けなければ変える。
移動する方が危険なら止まる。
新しい危険が発生すれば、もう一度判断する。
これが、
避難行動フロー2.0
です。
しかし、この研究を進めたことで、さらにその前が見えてきました。
「再判定する能力」を高めるだけではなく、「発災後に判断しなければならない量そのものを減らす」。
ここが次の研究テーマです。
防災リュックを準備する。
水を持つ。
避難先を決める。
家族で話す。
通信手段を複数持つ。
これらは単なる「備え」ではありません。
災害時の判断を、平時に前払いしている。
とも考えられます。
この考え方は、かなりER-DIGらしいと思います。
みのるの結論
避難行動判定フローから始まり、
マイ・タイムライン。
ER-DIG。
そして、
分岐+再判定型「避難行動フロー2.0」
まで考えてきました。
しかし、その先にもう一つありました。
発災してから、すべてを考えない。
発災した瞬間に、
考えなくても最初の行動へ移れる状態を作っておく。
さらに、
災害が起きても意識して防災モードへ切り替えなくていいように、
災害対応そのものを日常生活へ組み込んでおく。
そのために、
Ready → Should → When → Can → What next
までを一つの避難行動として考える。
避難行動とは、
災害が起きてから始まるものではないのかもしれません。
「0時間」より前から、すでに始まっている。
避難行動フロー2.0から見えてきたこの問いを、次のER-DIGではさらに研究していきたいと思います。