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── みのる防災

【72時間の壁シリーズ】

真・「72時間の壁」
再調査と再定義──72時間は本当に終わったのか?(使えなくなったのか?)
はじめに
「72時間の壁」。
防災を学んだことがある人なら、一度は耳にしたことがある言葉ではないでしょうか。
阪神・淡路大震災以降、
「発災から72時間が人命救助の重要な時間」
として語られ、防災対策やBCP(事業継続計画)の基準としても広く活用されてきました。
しかし近年、
東日本大震災
熊本地震
能登半島地震
などを経験する中で、こんな声を聞くようになりました。
「72時間では足りない」
「救助はもっと遅れる」
「72時間の壁はもう古い」
確かに、広域災害や複合災害では、72時間以内に支援が届かない地域も存在します。
南海トラフ巨大地震では、その傾向はさらに強くなるかもしれません。
では、
72時間という考え方は、本当に使えなくなったのでしょうか。
私は防災士として活動しながら、香川大学大学院でBCPと危機管理を学んでいます。
学びを続ける中で感じるのは、
「72時間は終わった」という単純な話ではない
ということです。
むしろ、72時間は今でも重要な基準であり続けています。
ただし、その意味が変わり始めているのです。
人命救助の時間軸としての72時間。
避難生活を支えるための72時間。
企業や介護施設が事業を継続するための72時間。
同じ72時間でも、立場によって意味は異なります。
本記事では、
阪神・淡路大震災から能登半島地震、そして将来想定される南海トラフ巨大地震までを視野に入れながら、
「72時間の壁」の誕生と変化を再調査します。
その上で、防災・BCP・レジリエンスの視点から、現代における「72時間」の本当の意味を考えていきます。
この記事の結論(先出し)
本記事の結論を先に述べます。
72時間は終わっていません。
しかし、
72時間だけでは足りなくなりました。
私たちが見直すべきなのは、
72時間という考え方そのものではなく、
72時間を「ゴール」と考える固定観念なのです。
第1章
「72時間の壁」とは何か──阪神・淡路大震災で生まれた命の指標
1995年1月17日。
阪神・淡路大震災は、多くの命を奪いました。
その後の調査で、
「発災から72時間以内に救助された人の生存率が高い」
という傾向が明らかになります。
これが後に、
「72時間の壁」
あるいは
「黄金の72時間」
と呼ばれるようになりました。
この考え方は、
消防・警察・自衛隊の救助活動だけでなく、
自治体の防災計画や企業のBCPにも大きな影響を与えます。
非常食は3日分。
飲料水は3日分。
初動対応は72時間。
多くの防災計画は、この時間軸を基準として作られてきました。
つまり72時間とは、
単なる数字ではありません。
日本の防災を支えてきた「共通言語」だったのです。
第2章
72時間は本当に通用しなくなったのか
近年の災害は、この常識に大きな問いを投げかけました。
東日本大震災
広域災害によって、多くの地域が孤立しました。
支援が72時間以内に届かなかった地域も少なくありませんでした。
熊本地震
前震と本震が連続して発生。
一度動き始めた救助計画や避難行動が大きく狂いました。
「72時間」のスタート地点そのものが曖昧になったのです。
能登半島地震
道路寸断や孤立集落が発生。
72時間を超えて救助された事例もありました。
これらの事例を見ると、
確かに72時間だけでは語れません。
しかしだからといって、
72時間が不要になったわけでもありません。
むしろ、
72時間だけで災害を考えることが危険だった
ということなのです。
第3章
BCPではなぜ今も72時間が必要なのか
ここで視点を変えてみましょう。
人命救助ではなく、
事業継続の視点です。
例えば介護施設。
発災後、
何日分の食料が必要か。
何日分の飲料水が必要か。
何日分の医薬品が必要か。
職員は何日間対応できるか。
こうした議論を行う際、
時間の基準が必要になります。
そこで登場するのが72時間です。
BCPでは、
72時間は「絶対の答え」ではありません。
しかし、
共通の時間軸として非常に重要です。
企業でも同じです。
復旧目標。
代替手段の確保。
初動対応。
これらはすべて時間を基準に設計されます。
72時間は、
救助の限界時間ではなく、
計画を作るための基準線
として機能しているのです。
第4章
南海トラフ巨大地震が変える72時間の意味
阪神・淡路大震災は都市直下型災害でした。
しかし南海トラフ巨大地震は違います。
被害は西日本全域に及びます。
道路。
港湾。
物流。
通信。
電力。
あらゆるインフラが同時に被災する可能性があります。
つまり、
72時間後に回復へ向かうとは限らないのです。
むしろ、
72時間後も被害が拡大している可能性があります。
だからこそ、
現代の防災では
「72時間+その先」
を考える必要があります。
レジリエンス。
マルチハザード。
事業継続。
これらは全て、
72時間を超えた世界を見据えた考え方です。
第5章
新しい備えは「72時間を超える設計」
これから必要なのは、
72時間を否定することではありません。
72時間を起点に、
1週間。
1か月。
さらにその先まで設計することです。
例えば、
- 1週間分の備蓄
- 在宅避難の準備
- トイレ対策
- 医薬品管理
- 家族との連絡方法
- マイタイムラインの作成
こうした備えは、
72時間以降を生き抜くための準備です。
第6章
あなたの家庭に「72時間の地図」はありますか
防災で本当に大切なのは、
物だけではありません。
行動計画です。
どこへ避難するのか。
誰と連絡を取るのか。
家族はどこで合流するのか。
在宅避難は可能か。
高齢者やペットはどうするのか。
これらを事前に決めておくことが、
72時間を超える力になります。
終章
72時間は終わったのか
この記事の問いに戻ります。
72時間は本当に使えなくなったのでしょうか。
私の答えは、
「いいえ」です。
72時間は今も重要です。
防災。
BCP。
危機管理。
すべてにおいて共通言語として機能しています。
しかし、
72時間だけでは足りません。
東日本大震災。
熊本地震。
能登半島地震。
そして将来の南海トラフ巨大地震。
これらが示しているのは、
72時間を超える災害の現実です。
必要なのは、
72時間を捨てることではありません。
72時間を出発点として、
1週間、
1か月、
そして復旧・復興まで見据えた備えを考えることです。
「72時間の壁」は終わっていません。
ただ、その先に続く長い道を、私たちは見なければならなくなったのです。
補論:72時間は「予言」ではない。「設計図」である
「72時間の壁はもう古い」
近年、このような議論を見かけることがあります。
確かに、東日本大震災や能登半島地震では、72時間を超えて救助された事例が存在します。
その意味では、
72時間は絶対的な限界時間ではありません。
クライシスマネジメント(危機対応)の現場では、
生存率
捜索救助活動(SAR・SRT)
医療支援
災害医療
などを中心に判断が行われます。
現場の状況は複雑であり、
「72時間を超えたから終了」
という単純なものではありません。
実際には、救助隊は可能性がある限り捜索を続けます。
つまり、
72時間は救助活動を止めるための時間ではないのです。
一方で、
リスクマネジメントやBCP(事業継続計画)の視点になると話が変わります。
なぜなら、
企業も施設も自治体も、
準備できる資源には限界があるからです。
例えば介護施設を考えてみましょう。
- 食料は何日分備蓄するのか
- 飲料水はどれだけ確保するのか
- 医薬品は何日持つのか
- 発電機の燃料はどれだけ必要か
- 職員は何日間対応できるのか
これらを考えるとき、
無限に備えることはできません。
だからこそ、
時間軸という共通言語が必要になります。
24時間
↓
72時間
↓
1週間
↓
1か月
このような時間区分を設定し、
それぞれの段階で必要な資源や行動を設計していくのです。
これは、
「72時間後に災害が終わる」
という意味ではありません。
むしろ、
最低限どこまで耐える設計を行うのか
という考え方です。
ISO22301に基づくBCPや、
BIA(事業影響度分析)でも同様です。
復旧目標時間(RTO)や許容停止時間を設定しますが、
それは未来を予言するためではありません。
計画を作るための基準値です。
つまり、
72時間は救助の限界時間ではありません。
同時に、
72時間は防災やBCPにおける重要な共通言語でもあります。
私は防災士として活動しながら、
香川大学大学院でBCPと危機管理を学んでいます。
その中で感じるのは、
私たちが捨てるべきなのは
「72時間神話」であり、
72時間そのものではないということです。
72時間は予言ではない。設計図である。
災害が72時間で終わる保証はありません。
しかし、
72時間という基準がなければ、
防災計画も、
介護BCPも、
企業BCPも、
具体的に設計することができません。
だからこそ、
私たちはこう考えるべきではないでしょうか。
72時間神話は捨てる。
72時間基準は残す。
そして、
72時間の先にある1週間、1か月、その先の復旧・復興まで見据えた備えへ進化させる。
それが、南海トラフ巨大地震時代の新しい防災とBCPの考え方なのだと思います。
備えは愛だ。

【72時間の壁シリーズ】

2026.6.11
72時間の壁は嘘なのか? 生存率・根拠・内閣府・BCP・SRTまで全30問で整理―Q&A30問解答 2026.6.11更新
【72時間の壁を、学術的に解説した記事と分析した全10記事】2025年度版
⑩第10記事【第10回】企業版72時間──RTO/RPOとBCPがつながる瞬間 家庭の72時間と、企業の“再稼働時間”は同じ線上にある
⑨第9記事【第9回】「実感で見た72時間」──東日本・熊本・トルコの実証から考える“自立の限界”データと現場が示した「72時間を超える災害」のリアル
⑧第8記事【第8回】世界は72時間を超えている──FEMA・NZ・フィリピン比較 各国キャンペーンとISO22301が示す「3日では足りない」理由
⑦第7記事:72時間の壁の歴史──阪神淡路から熊本・胆振まで なぜ“3日神話”はここまで広まったのかー「知っておくべき歴史」
⑥第6記事: 「72時間の壁」は神話か、それとも今も有効か?──歴史・データ・国際比較から再検証
⑤第5記事:「真・72時間の壁(SRT=Self-Reliance Time)特集」7〜14日を現実にするチェックリスト(家庭版)
④-⑤ 研究追加記事:真・72時間の壁―歴史が教える「72時間の先」戦争・巨大災害・復旧・復興の時間軸を考える
④第4記事:真・72時間の壁──南海トラフ時代のSRT(自立継続時間)を提案する
③第3記事:真・「72時間の壁」 【序章】再調査と再定義──「72時間」はもう終わった?
②第2記事:「備える」とは?──“72時間の壁”が教えてくれた備えの本質
①第1記事:【2026年更新】2025.5.22原文考察― 「72時間の壁」とは? 阪神・淡路大震災から生まれた防災の考え方と、私が現在考えていること 2026.6.4更新👆おすすめは、この第1記事から読んでください。背景を理解できます。👆
【防災グッズ&防災リュックを備えるための「72時間」】
④第4記事:🧰避難にはスケジュールがあるって知ってました?~防災グッズを揃える手順は3つの避難ターンでそろえよう
③第3記事:🧰【1日~1.5日対応】36時間用・防災リュック「防災リュックを持って、本当に逃げられるだろうか?」
②第2記事:✔ 最低限そろえたい「3日間サバイバル」基本セットとは?その理由と使い方
①第1記事:👜 3人家族の防災対策・具体例~タイムスケジュールで備える!「その瞬間」から72時間(3日間)を乗り切るために~
参考記事-海外との比較
第3回:日本とアメリカの防災はなぜ違うのか?―文化的背景のさらに深い視点:農耕と狩猟の記憶
https://minoru-bousai.blogspot.com/2025/09/blog-post_23.html
第2回:日本とアメリカの防災はなぜ違うのか?──歴史・地理・文化的背景から考える
https://minoru-bousai.blogspot.com/2025/09/blog-post_5.html
日本とアメリカの防災はなぜ違うのか?──歴史・地理・文化的背景から考える
https://minoru-bousai.blogspot.com/2025/09/blog-post_4.html
日本とフィリピンの防災対応の違い!はじめに──自己紹介
https://minoru-bousai.blogspot.com/2025/08/blog-post.html
日本とタイの防災──地震発生時の行動を比較する
https://minoru-bousai.blogspot.com/2025/09/blog-post.html
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